くるり、くるり。紙と木が風に擦れては、掠れ乾いた音を立てて回る、あまりに不恰好なかざぐるま。マッチ棒も折り紙もなくって、楊枝と広告で作った、決して可愛くもないかざぐるま。

 古い実家の部屋の中、軋む窓枠に腰掛けて、夕暮れを背に感じながら私は意識して何度か瞬きをした。外から聞こえてくるのは、耳をつんざくクラクションと女子学生の高い笑い声。

 明日から此処は私の町ではなくなる。生まれ育った私の町だけれど、既に私の町ではないのだと思った。そも、町ではなく村である。

 息を吹きかけなくても、入ってくる風で回るかざぐるま。あんたなんかいらないのよ、なんて物相手に被害妄想。喋る相手もいない閑散とした部屋は、かざぐるまの音だけを吸収していく。ダンボールが数個軋んだ。

 一人暮らしを止めなかった両親、激励をくれる弟達。かざぐるまは回る度にたくさんの色を見せて、冷たい。 そっと手を伸ばす。羽の一つを摘むと、呆気なく口を閉じた。内の静寂と外の騒音に挟まれる。

 無性に苛々が募って、握り潰そうと手に力を込めた。くし、と小さな音に体が緊張する。指先が震えて、頭がじんとした。





 くるり、くるり。かざぐるまが歪に回る音が聞こえる。両手で握ったかざぐるま。額に拳を当てて耳を済ませる。

 内からは格好悪い音が引き攣って響く。外からは両親と弟達が階下で話す声が聞こえる。

 明日から此処は私の町ではなくなる。この夕暮れも今日でお終い。私は今までから離れて、これからを歩き出すのだ。かざぐるまは羽を歪にさせて回り続ける。

 夕暮れの終わりと共に、風もまた眠りについた。視界は暗闇にゆらゆら揺れて、止まったかざぐるまさえ回って見えた。